ピロリ菌について
ピロリ菌は、らせん状の形状をした細菌で、ウレアーゼという酵素を作り、周囲の酸を中和させるアンモニアを生成することで、細菌などの病原体を死滅させる役割を持つ胃酸の中で胃粘膜に感染し生息することができます。基本的には胃酸や免疫がまだ弱い幼少期に感染して、胃粘膜に持続感染し、慢性的な炎症を起こします。胃炎や胃潰瘍が慢性化すると胃がんなどへ悪化するリスクが高まる為、ピロリ菌に感染していることがわかった場合、除菌治療が必要です。除菌治療に成功すると胃や十二指腸粘膜の炎症や潰瘍の再発リスクが大幅に低下します。胃がんは慢性胃炎が進行して萎縮性胃炎になると発生リスクが大幅に上昇するため、炎症を進行させないためにもピロリ菌除菌治療をお勧めしています。
ピロリ菌は主に汚染された井戸水などを介して経口感染します。ただし、人から人への経口感染を引き起こすという指摘がされており、胃がん・十二指腸がん・胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの既往歴を持つ家族がいる場合、ピロリ菌感染の可能性が高くなる為、詳しく検査を行い感染の有無を調べる必要があります。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌感染の有無を調べる検査には、胃カメラ(胃内視鏡)の検査中に組織を採取して行う検査と、血液・尿・便・呼気などを調べる検査があります。
ピロリ菌の除菌治療は保険適用が可能ですが、その場合は、胃カメラ検査による胃炎の確定診断が必須になっています。
胃カメラ検査時に組織を採取して行う検査
迅速ウレアーゼ試験 | ピロリ菌の持つウレアーゼという酵素の働きでつくり出されるアンモニアを調べることで、ピロリ菌感染の有無を判断します。 |
鏡検法 | 採取した組織を染色し、顕微鏡で感染の有無を調べます。 |
培養法 | 採取した組織を培養し、ピロリ菌の有無を調べます。最も詳細な情報を得られる検査です。 |
胃カメラ検査を行わずに可能な検査
尿素呼気試験 | 専用の薬を内服する前と後の呼気を採取し、感染の有無を確かめます。胃カメラ検査を行わずにできる検査では、精度が最も高いとされていて、除菌治療の成功判定に使われることがあります。 |
抗体測定 | 血液や尿を採取して、ピロリ菌に対する体内の抗体の有無を調べる検査です。 |
便中抗原測定 | 便を採取して、ピロリ菌の抗原の有無を調べる検査です。 |
ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌に感染していると必ず胃がんになるということではありませんが、ピロリ菌感染が胃がんの大きなリスク要因であることはわかっていて、ピロリ菌感染していない場合に比べて、感染している場合は胃がんリスクが約5倍になると指摘されています。
そしてピロリ菌に感染している場合、除菌治療の成功が胃がん予防に一定の効果を持つことが世界各国の研究によって確かめられてきています。ただし、リスクは低下しても胃がん発症がゼロになるわけではありません。除菌に成功しても定期的な胃カメラ検査(胃内視鏡検査)を受けて、早期発見に努めることは重要です。早期発見できればほとんどの胃がんが内視鏡による治療で完治を期待できます。
まずはピロリ菌感染の有無を確かめ、陽性の場合には除菌治療でリスクを下げて、定期的な胃カメラ検査を受けることで将来の健康と快適な生活につなげましょう。
ピロリ菌の治療
ピロリ菌の除菌治療は、抗生物質2種類と、その効果を高める胃酸分泌抑制薬を1種類、1日2回、1週間服用するだけと、患者様の心身への負担が少ないことが大きな特徴になっています。
耐性菌が増えている現在、初回の除菌治療が成功する確率は約90%とされています。除菌が成功したかを調べる判定は、薬の服用から2か月程度経過しないと正しい検査結果を得ることができません。成功判定検査で除菌が確認できたら除菌治療は終了です。
除菌に失敗した場合には、抗生物質を1種類変更して、後は初回と同様の2回目の除菌治療が可能です。初回と2回目の除菌治療を合わせた成功率は、約99%とされています。なお、3回目の除菌治療も可能ですが、保険適用されるのは2回目までです。3回目以降の除菌治療は自費診療になります。実際に、3回目、4回目、5回目の除菌治療を成功されたケースもありますので、ご希望がありましたらご相談ください。
除菌治療の副作用
軟便・下痢・吐き気・味覚障害などの副作用を起こすことがあります。こうした症状はほとんどが一時的に起こり、服薬終了後には改善します。重い症状が続く場合にはご相談ください。
ピロリ菌除菌治療では、胸やけや胃もたれといった逆流性食道炎のような症状を起こすこともあります。
これは胃粘膜が正常に戻ったことで胃酸分泌が増えて生じています。軽い症状のケースがほとんどを占めますが、気になる場合には症状を改善する薬を処方しています。
また、抗生物質に対するアレルギー反応が起こることもあります。蕁麻疹や息苦しさなどのアレルギー症状が現れた場合には速やかに服薬を中止してすぐに受診してください。
文責:佐久間 大 院長 【日本消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化器病専門医・指導医、日本肝臓専門医、日本内科総合内科専門医 など】