健診センターはこちら

大腸・小腸・肛門の疾患

大腸憩室症

消化管などの壁が拡張して袋状になっている状態が憩室です。外側に向けて飛び出すため、内視鏡検査ではくぼみとして確認されます。内視鏡検査では10人に1人程度に見つかっていて、増加傾向にあるとされています。腸壁自体が飛び出す真正憩室はまれで、腸粘膜だけが筋層の間から飛び出す仮性憩室がほとんどを占めます。憩室ができやすい方もありますし、多発するケースもありますが、大腸憩室自体は特に問題を起こしませんので炎症などを起こしていない限り治療の必要はありません。憩室が炎症を起こすと腹痛や血便、下血などを起こすことがあります。憩室炎や周辺の炎症が起きた場合は、悪化すると腹膜炎につながる可能性もありますので、できるだけ早く適切な治療を受ける必要になります。憩室があって腹部症状で受診される際には、憩室があることを最初に伝えることでスムーズに診断・治療が可能になります。

原因

腸の内圧が高くなって、粘膜が筋層の弱い部分から押し出されると考えられています。

症状

憩室自体は無症状です。ただし憩室が炎症を起こすと、腹痛・血便などを起こすことがあります。

診断

炎症を起こしていない憩室は、ほとんどが別の目的で受けた内視鏡検査などで発見されます。憩室炎を起こしている場合には、治療が必要です。状態を確認するために超音波(エコー)検査や腹部CT検査なども行われますが、大腸内視鏡検査によって確定診断可能です。

治療

憩室炎、そして憩室周囲に炎症を起こす憩室周囲炎が疑われる場合は、速やかに治療を受けてください。腸壁に穴が開く穿孔を起こすと腹膜炎になってしまうため緊急手術が必要になります。憩室炎や憩室周囲炎では炎症によって出血し、血便や下血を起こすことがあります。自然に止血するケースが大半を占めますが、出血量が多い・何度も繰り返す場合は大腸内視鏡による止血処置を行います。
炎症を起こしていない場合は特に治療の必要はありませんが、便秘をすると腸の内圧が高まって憩室ができるリスクが上昇します。また憩室炎を起こしたことがある場合は大腸の狭窄や癒着を起こしやすいため、便通コントロールは特に重要です。

急性虫垂炎(盲腸)

大腸の最も小腸に近い部分である盲腸から突き出した細長い部分が虫垂です。この虫垂が閉塞して細菌感染を起こし、炎症を起こしている状態が虫垂炎です。虫垂が穿孔を起こしてしまうと腹膜炎などを起こす可能性があるため、早期に適切な治療を受けることが重要です。

症状

突然、上腹部やおへそ周辺に強い腹痛を起こし、痛みはやがて右下の方に移動します。吐き気や嘔吐、ガス、膨満感、便が出ないなどの症状を起こすこともあります。虫垂が穿孔を起こして腹膜炎になると腹部全体に激しい痛みを起こします。発熱や白血球の増加などを起こすこともあります。

検査

触診で発見できる場合もありますが、X線検査や腹部超音波(エコー)検査などで盲腸や虫垂の状態を確認して診断します。他の疾患との鑑別のためにCT検査を行うこともあります。

治療

炎症が軽度の場合には抗菌剤を使った薬物療法を行って経過を観察します。穿孔を起こす可能性がある場合には、開腹、あるいは腹腔鏡による虫垂切除手術を行います。

虚血性腸炎

虚血は、血管が一時的に詰まって血流が途絶え、その先に酸素や栄養素が届かなくなっている状態で、炎症などを起こします。虚血性腸炎では大腸血管の血流が滞って大腸壁が虚血を起こし、炎症・潰瘍などを生じさせます。腸管が壊死する可能性もあるため、早めに適切な治療を受けることが重要です。発症頻度が高いのは下行結腸です。

症状

主な症状は、腰痛・下痢・血便です。頻度は高くありませんが腸閉塞を起こすと膨満感や嘔吐といった症状が現れることもあります。こうした症状は幅広い大腸疾患で起こりますが、突然腹痛が起こって通常の排便をした後で鮮やかに赤い血便が出る場合、虚血性腸炎が強く疑われます。

原因

高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病や加齢による動脈硬化、便秘による腸管内圧の上昇によって大腸血管が詰まることが原因となって発症します。ストレスや運動不足、食事なども発症に関係していると考えられています。

検査

血液検査や腹部超音波(エコー)検査を行います。また、内視鏡検査では炎症や潰瘍の程度や範囲などを正確に確認できますし、疑わしい部分の組織を採取して病理検査を行うことで確定診断が可能です。虚血性腸炎で起こる症状は、大腸がん、クローン病、潰瘍性大腸炎、大腸憩室炎など幅広い大腸疾患と共通しています。早期に適切な治療を行うことが特に重要な大腸がん・クローン病・潰瘍性大腸炎との見極めのためにも、内視鏡検査が重要になってきます。ただし、状態によっては内視鏡検査ができないケースもあります。

 感染性腸炎

急性の腸炎は、ほとんどが細菌・ウイルス・寄生虫などの病原微生物によって起こります。ただし、薬剤やアレルギー、動脈硬化などで急性腸炎になることもありますので、鑑別と適切な治療を受ける必要があります。また、慢性腸炎にも腸結核やアメーバ赤痢など感染性のものがあります。細菌によるものの場合は培養で原因を特定できる場合もありますが、ウイルスによるものは原因を特定できないため、症状や流行状況などを総合的に判断して診断しています。

原因

病原性微生物による感染性腸炎は、細菌性食中毒とウイルス性腸炎が多く、細菌やウイルスが腸粘膜に感染するものと、細菌が作り出す毒素によって症状を起こすものに分けられます。主な症状は腹痛や下痢ですが、血便、発熱、吐き気・嘔吐、食欲不振などの症状を起こすことがあり、経過や症状などによってある程度は原因を絞れます。
まれですが、コレラ、赤痢、腸チフス・パラチフスになった場合には、迅速な届出や指定医療機関による治療、二次感染予防が義務付けられます。

症状

細菌性腸炎

代表的なものに、サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌などがあります。


サルモネラ

鶏卵や食肉によって感染します。潜伏期間は8~48時間で、吐き気、腹痛、下痢を起こします。


カンピロバクター

主に鶏肉から感染します。潜伏期間は1~7日間と比較的長いのが特徴です。最初、かぜのような症状が現れます。


腸炎ビブリオ

主に魚介類から感染し、潜伏期間は10~18時間です。激しい腹痛や発熱、下痢などを起こします。


ブドウ球菌

さまざまな食品から感染します。ブドウ球菌が作り出す毒素によって吐き気や嘔吐、下痢などの症状を起こします。潜伏期間は1~5時間程度です。


O-157

腸管出血性大腸菌の1種で、ベロ毒素を産生します。下痢、血便を起こしますが、溶血性尿毒症症候群になると急性腎障害や溶血性貧血などを起こすこともあります。経口感染だけでなく二次感染も起こすため、注意が必要な感染症です。

ウイルス性腸炎

エンテロウイルス、腸管アデノウイルス、ノロウイルスなどによるものが多く、乳幼児ではロタウイルスに注意が必要です。空気が乾燥した冬に流行することが多く、「お腹のかぜ」と呼ばれることもあります。

治療と予防

下痢の症状がある場合は、原因にかかわらず脱水を起こさないように水分補給をすることが不可欠です。特に高齢者や乳幼児は脱水が進行しやすいので早めに受診するようにしてください。下痢がひどくなければ経口補水液などで水分補給が可能ですが、脱水を起こす可能性がある場合や嘔吐などにより口から十分な水分を摂取できない場合は速やかに点滴が必要です。
なお、感染性腸炎の疑いがある場合、下痢止めを自己判断で服用すると毒素や病原体の排出が妨げられて症状を悪化させる可能性があります。また、腸管出血性大腸菌感染は、抗生物質の投与によって重症化することがあります。
予防は、こまめな手洗いと、食品の管理が重要です。生の肉や魚を調理したら、その都度調理器具と手を必ず洗ってください。また、肉や魚は常温に放置しないよう心がけましょう。
また下痢をしているご家族がいる場合、食器などを共有しないよう注意し、使用後のトイレの消毒、吐いたものなどの処理には気を付けるようにしてください。

偽膜性腸炎

腹痛偽膜性腸炎は、頻回の水様便・腹痛・発熱を呈する病気で高齢者に多くみられ抗生物質の使用・手術・癌・中心静脈栄養・免疫力低下などが誘因となることで生じます。とくに抗生物質投与後、4~9日で下痢・腹痛・発熱などの症状が出現することが多く、抗生物質中止後や投与初期に発症することがあります。

診断

内視鏡検査では、小円形ないし楕円形に隆起した白色から黄白色調の多数の偽膜が大腸内に見られます。好発部位は直腸~S状結腸である。Clostridium difficile (C. difficile) と呼ばれる菌が異常増殖し、その毒素によって発生するといわれています。診断方法は、大腸内視鏡、便培養、糞便中トキシン(トキシンA)の証明などになります。

治療

塩酸バンコマイシンやメトロニダゾールの経口投与となります。

カルチノイド腫瘍

カルチノイド腫瘍は、神経内分泌腫瘍 (Neuroendocrine tumor: NET)とも言います。消化管では、直腸に好発する上皮性の腫瘍で、内視鏡的には黄白色の粘膜下腫瘍様の形態をとります。カルチノイドは、脂質の含有量が多いため黄白色調を呈することが多いです。カルチノイド腫瘍は、腸管の粘膜固有層という部位の幼若内分泌細胞から発生します。比較的若年者でも認められる腫瘍の一つです。症状等はなく大腸内視鏡検査時に偶然見つかることが多いです。

治療

悪性度が低く早期の状態であれば内視鏡での治療が可能ですが、癌化し進行したものですと外科治療や薬物療法が必要となります。内視鏡での治療は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)ないし内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)で切除されます。直腸カルチノイドの内視鏡治療の適応は、腫瘍径が1cm以下で粘膜下層にとどまるものとなります。腫瘍径が1cm以上で、粘膜下層より深く浸潤するものに関しては、リンパ節への転移のリスクが高くなるため外科手術となります。

小腸がん

十二指腸がん・空腸がん・回腸がんに分けられます。比較的罹患率が低いがんであり、十二指腸がんが45%、空腸がんが35%、残りの20%が回腸がんです。十二指腸がんは胃カメラ検査で、回腸の大腸に近い部分は大腸カメラ検査で早期発見が可能ですが、それ以外の部分は内視鏡による詳細な観察が難しいため早期発見されることはほとんどありません。がんのタイプでは、神経内分泌腫瘍が最も多く、次いで腺がんとなっていて、悪性リンパ腫や肉腫というケースもあります。

症状

早期にはほとんどが無症状です。進行すると腹痛や膨満感、吐き気や嘔吐を起こすことがあります。がんからの出血がある場合には、便潜血検査陽性、下血、貧血などを起こします。また、胆汁の出口にがんができて黄疸を生じ、発見されることもあります。

診断と治療

十二指腸がんは胃カメラ検査で発見と組織採取による確定診断が可能です。また、回腸の大腸に近い部分は大腸カメラで観察・組織採取ができるため確定診断が可能です。回腸の大部分や空腸のがんが疑われる場合には、カプセル内視鏡で観察ができますが、組織採取が行えないため確定診断ができません。そこで、バルーン型内視鏡による検査を行います。また、造影剤を用いたX線検査などを行うこともあります。こうした検査結果を総合的に判断して診断します。治療は手術による腸管の切除が第一選択であり、リンパ節も含めて切除します。切除が難しい場合には小腸に直接胆管や胆のうをつなぐバイパス手術や、放射線療法、化学療法を行うこともあります。

急性出血性直腸潰瘍

直腸に潰瘍が発生します。症状が進むと潰瘍からの出血や下痢などの症状が現れます。悪化すると、排便時に血が混じった便が出てくるようになります。出血の量が多い場合は貧血やめまいなどの症状が起きてくるので、病院に通院して輸血と手術などの処置を受ける必要があります。直腸の潰瘍を取り除く手術を受けると治すことが出来ます。

症状

この潰瘍は若い人にはほとんど発症する事はなく、重篤な疾患を有する寝たきりの高齢者が罹患しやすく、突然大量の出血(新鮮下血)を肛門からする事で判明します。下部直腸に潰瘍はできるものの、痛みがほとんどないので気付きづらい点があります。良性の疾患ですので止血が出来れば自然治癒が可能です。

原因

急性出血性直腸潰瘍での主な原因は、人間の直腸内にポリープが出来ていた場合、放置したままの状態であったためポリープが肥大して潰瘍となって、便と擦り合う時に出血してしまう事です。その他には、あらゆるウイルス性の感染症によって、直腸の部分にウイルスが感染されて、直腸の部分に出血を伴う潰瘍ができてしまう場合があります。

診断

大腸への内視鏡検査を行うことにより、腸内の出血の状態や症状の詳しい状態を確認することが可能です。また、この病気であるかどうかを判断する材料にもなります。直腸内反転法という内視鏡検査の方法をとることで、詳細な腸内の状況を確認することができます。

治療

直腸からの出血を止める薬を服用することで、急性出血性直腸潰瘍の血便の症状を緩和させる事が出来ます。症状が進行していて出血が止まらない時は、直腸を切除して人工肛門を埋め込む治療法を受けると完治することが出来ます。症状が軽い場合は、動脈塞栓術で治療をすることが可能です。血管硬化剤という薬を使用すると、止血をスムーズに行なう事が出来ます。

直腸粘膜脱症候群

直腸の肛門付近にできるもので良性の病変ですが血便の原因となることがあります。直腸下部(Rb)によく見られポリープ状の隆起の病変が多いです。組織は、毛細血管や線維芽細胞・筋細胞といったものが増殖し、特徴的なポリープ状の盛り上がりとなります。
形態として隆起型・潰瘍型・平坦型と3つのタイプに分けられます。

原因

習慣的な排便時のいきみが主な原因となり、直腸の一部の粘膜が脱出していくことで生じる病変です。悪化すると血便を生ずることがあります。

治療

まずは保存的な治療になります。トイレでの時間を少なくする、いきみの習慣をやめるなどが第一です。薬物療法としては、緩下剤などを使用することもあります。一番重要となるのは、直腸がんとの鑑別です。直腸がんと誤って診断されてしまい過剰な治療を行うことを避けるためには正確な診断が必要となります。そのためには、内視鏡検査で組織を正確に採取し病理診断が重要となります。

痔核(いぼ痔)、裂肛 (切れ痔)、痔ろう(あな痔)の3つに分かれます。種類によって原因や症状が異なるため、それぞれに適した対処をする必要があります。

痔核(いぼ痔)

痔核というふくらみが肛門にできる疾患で、表の皮膚側にできたものが外痔核、内側の直腸粘膜にできたものが内痔核です。痔では最も発症頻度が高く、男女ともに痔で受診される方の半数がいぼ痔です。肛門の周囲には静脈の毛細血管が集まってクッションのような役割を果たしています。過度のいきみなど肛門にかかった負担によってそのクッション部分がふくらんで痔核ができます。

原因

便秘や下痢、硬い便、習慣的に繰り返す強いいきみ、重いものを持つなど、肛門にかかる負担が積み重なって発症します。

症状

外痔核は皮膚部分にできるため痛みが強く現れやすく、内痔核は痛みがほとんどなくて出血や痔核の脱出によって気付くことが多くなっています。他にも残便感などの症状を起こすことがあります。激しい痛みを起こす場合、血栓性痔核や嵌頓痔核の可能性があります。なお、内痔核の場合、脱出の程度で分類されていて、それに合わせた治療を行います。

治療

内痔核は、脱出の程度によりI~IV度に分類されます。また、急性期の激しい痛みを伴う痔核としては、「血栓性外核痔」と「嵌頓(かんとん)痔核」があります。


生活習慣の改善

食事や排便習慣をはじめとした生活習慣の改善は、痔の症状悪化を防ぐためにも有効ですし、再発予防にもつながります。


薬物療法

軟膏で痛み・腫れ・出血を鎮め、便の水分量を整える薬や炎症を抑える薬、抗生物質などを処方することもあります。


手術療法
注射療法
(ジオン注射/ALTA療法)
内痔核に有効な注射療法で、痔核の脱出がある場合にも効果が見込めます。アルミニウムカリウムタンニン酸液(ALTA)を注入することで炎症を生じさせ、その炎症が治る際に生じる繊維化によって痔核が括約筋に固定されて脱出しなくなります。固定された痔核は硬化して縮小していきます。正確な位置、角度、深さに、適切な量の薬剤を注入しないと直腸狭窄や潰瘍などの合併症を起こす可能性があるため、専門的な訓練を受けた医師だけが行うことができます。
結紮切除術 内痔核で症状が強く日常生活に支障がある場合や、注射療法を行っても出血・再発を繰り返す場合には、手術が検討されます。結紮切除術では、内痔核を注入動脈の根元で縛り、痔核を放射状に切除します。
ハイブリッド手術 注射療法(ジオン注射/ALTA療法)と結紮切除を併用して行う治療法です。内痔核には注射を行い、外痔核は結紮切除します。術後の出血を減らすことができますし、合併症の予防にもつながります。

裂肛 (切れ痔)

女性の発症が多い痔です。20~40歳代の発症が多く、生活習慣などを改善しないと再発を繰り返すことがあります。

原因

便秘による硬く太い便によって起こることが多いのですが、水っぽく勢いよく出る下痢でも切れてしまうことがあります。

症状

排便時に強い痛みを起こし、排便後も短時間ですが痛みが続きます。悪化すると痛みが長く続くこともあります。出血はペーパーに付着する程度のことが多く、大量出血を起こすことはほとんどありません。何度も同じ場所が切れていると潰瘍や瘢痕になって肛門狭窄を起こし、ますます切れやすくなるという悪循環を起こします。特に便秘で再発を繰り返すケースが多いため、切れ痔の治療では便秘の改善も重要になります。

治療

急性期には軟膏や便の水分量を調整する内服薬などにより、比較的短期間に治ります。ただし、便秘がある場合は再発しやすいため、その改善も重要です。食生活、排便習慣などを改善して、便秘を解消しましょう。慢性期で傷が深くなり潰瘍になっている場合や、見張りいぼ・ポリープができてしまった場合、そして肛門狭窄を起こしている場合には、手術が必要です。手術が必要になるのは、切れ痔の患者様の約1割程度です。

手術療法

肛門狭窄を起こしている場合には、手術が必要です。内括約筋側方皮下切開術では、狭窄した肛門を拡張して、病変部がある場合はそれのみを除去します。周囲の皮膚から粘膜の下にメスを入れて内括約筋の一部を切開します。局所麻酔による手術で、手術自体は数分で修了します。肛門が広がって切れにくくなりますし、痛みも緩和します。

痔ろう(あな痔)

肛門周囲膿瘍が生じて進行し、肛門内外をつなぐ管状の細いトンネルができてしまった状態が痔ろうです。このトンネルは自然に治癒することはなく、放置していると複雑に枝分かれして肛門機能にダメージを及ぼすこともあります。発症は男性に多い傾向があります。また、クローン病の合併症として起こることもあります。

原因

肛門の皮膚と粘膜の境目にある歯状線には、肛門陰窩というくぼみがあります。勢いの強い下痢などによって肛門陰窩に細菌が侵入して肛門腺が化膿し、肛門周囲に膿がたまった状態が肛門周囲膿瘍。膿が肛門周囲の組織内を進んで皮膚までつながる管状の細いトンネルができた状態が痔ろうです。

症状

肛門周囲膿瘍は肛門周囲の組織が化膿している状態ですから、38~39℃の高熱、激しい痛み、腫れといった症状が現れます。管状のトンネルが皮膚につながる痔ろうになると、膿が排出されるためこうした症状はなくなります。痔ろうでは滲出液によって下着が汚れ、皮膚炎などを起こすことがあります。また、出口が塞がると再び膿がたまって発熱や痛みなどの症状を起こします。

治療

肛門周囲膿瘍の症状が現れたら、できるだけ早く受診して皮膚切開による排膿が必要です。抗生物質や鎮痛剤なども処方されます。なお、痔ろうになった場合は、有効な治療法は手術のみで、保存療法では治すことができません。

手術療法
切開開放術 痔ろうは、肛門陰窩にある原発口から、内括約筋と外括約筋の開にできる膿の原発巣、そして枝分かれしてるろう管、膿の出口という構成になっています。切開開放術では、ろう管を切り開いて原発口から出口まで切除します。ろう管の位置などによって括約筋を大きく傷付けてしまう可能性があるため、場合によっては肛門機能が損なわれることも考えられます。肛門後方部はそうしたリスクがなく再発もほとんどないことから、切開開放術による治療が行われることが多くなっています。
括約筋温存手術 括約筋へのダメージを最小限に抑える手法です。ろう管をくり抜いて、膿の入口・原発巣・出口のみを切除します。複雑に枝分かれした痔ろうにも適しているとされていて、入院が必要な手術です。ただし、どれほど理想的な手術ができても再発が起こる可能性があります。
シートン法 ろう管の原発口から出口に向けてゴムを通して縛ります。これによって徐々にろう管が切開されますが、切開が終わった部分から治癒が進むため、肛門の変形などが少なく、肛門機能へのダメージも抑えられます。治療は長期間かかり、ゴムの締め直しや入れ替えなどのための定期的な通院が必要になります。

文責:佐久間 大 院長 【日本消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化器病専門医・指導医、日本肝臓専門医、日本内科総合内科専門医 など】

TOPへ